uropatho’s diary

泌尿器病理医によるブログ

TNM分類「前立腺癌」の備忘録-前立腺癌取扱い規約準拠-

前立腺癌のTNM分類についての備忘録です。2018年2月現在出版されている泌尿器領域の癌取扱い規約においてはこの前立腺癌取扱い規約(第4版)を含めてUICCのTNM分類第7版が採用されています。

 

T1

実際的にはTUR-P・HoLEP・TUEBの場合にT1a, T1bがつきます。

癌が5%以下 ⇒ T1a

癌が5%より多い ⇒ T1b

PSA上昇などのため針生検により確認される癌 ⇒ T1c

(pT1という分類はないので病理医が評価しなくても良い気がしますが一応記載)

T2~T4

前立腺片葉の1/2以内 ⇒ T2a

前立腺片葉の1/2をこえる ⇒ T2b

両葉への進展 ⇒ T2c

前立腺外進展 (EPE+) ⇒ T3a

顕微鏡的な膀胱頚部浸潤 ⇒ T3a

精嚢浸潤 (sv+) ⇒ T3b

精嚢以外の隣接組織 (括約筋・直腸・挙筋・骨盤壁) に浸潤 ⇒ T4

(組織学的に評価すべき項目ばかりですが臨床分類(!?)と定義されています。)

N

所属リンパ節転移あり ⇒ N1

M

遠隔転移あり ⇒ M1

 

診断例

Adenocarcinoma of the prostate, pT2c, GS 3+4, EPE0, RM0, sv0, pn0, ly0, v0, specimen of the prostatectomy

診断例についての説明: 

EPE: extraprostatic extension (前立腺外進展)

RM: resection margin (切除断端)

sv: 精嚢浸潤

ly: リンパ管浸潤

v: 静脈浸潤

pn: 神経周囲浸潤

※pT2+ という項目が規約にあります。前立腺内に切り込んで切除され、その断端に癌が露出している場合に用います。その際、RM1, EPExとなります。

おまけ、、前立腺のTNMはかなり特殊

前立腺という臓器の特殊性なのかはたまた歴史的な意味があるためかは知りませんが、とにかく前立腺の分類は「特殊」です。理由は以下の通りです。

 

① 決まりとして、前立腺のT分類では「pT1を設けない」ということになっています。

理由は「充分な組織学的検討がおこなわれないので」ということです。

つまりT1は臨床的な分類ですよ。病理学的な分類ではないですよということです。そう決められているので仕方がありません。

しかし、臨床的にTカテゴリーって評価できるんですか?

臨床的なT1aかT1bは病理医なしにどうやって分類するんでしょうか?

T1cは針生検で癌があれば臨床医がT分類できますが (生検の診断は病理だとしても)、、

臨床医には臨床的T分類が評価できず、病理医が臨床的T分類を行わなければならない。ちょっと変だと思いませんか。

 

②T1cというのは実際の癌の広がりやステージ(進行度)を表していますか?

T1cは本当は T2かT3かT4のどれかなはずです。T1aもT1bも同様です。

診断の根拠となるモダリティがTURだったらT1で全摘ならT2になる。これはステージングとして特殊過ぎませんか?

そしてT1a, T1b, T1c と進むにつれて病期がすすむのが普通ですが、このT分類はまったく病期の程度を表していません。T1bでも局所浸潤性の進行癌かもしれませんし、T1aでも精嚢浸潤があるかもしれません。病気の程度、つまり癌の広がりを本質的に表していないものがT分類として妥当なんでしょうか?

 

③またTNM臨床分類は「臨床分類」であり、Tカテゴリーの決定のためには身体的検査・画像診断・内視鏡検査・(生検)・生化学的検査を用いて評価するとなっています。さらには「現状ではTカテゴリー決定の際、生検病理所見は考慮しないという解釈が一般的である」とまで書いてあります。

しかし、どう考えても「組織学的検索」が必須であるという矛盾を内包します。上記に挙げたT分類を行うのはほぼ病理医の仕事でしょう。「顕微鏡的な膀胱頚部浸潤 ⇒ T3a 」など組織を見なくてはできないことをT3aにしてしまってます。臨床的T分類は治療前T分類という言葉に改変して、大まかにT2・T3・T4と分けるに留めておいた方がわかりやすいのではないでしょうか。

 

④pT2+ という特殊分類

TNM classification のGeneral rulesを鑑みると "The pathological assessment of the primary tumor (pT) entails a resection of the primary tumour or biopsy adequate to evaluate the highest pT category."

と記載されており「最高のpT分類を評価するために適切 (adequate) な検体が必要」とされています。

前立腺に切り込んでRM1となった時点で、pT分類は不可能でしょう。

理由は「充分な組織学的検討がおこなわれないので」ということです。pT1がないのと同じ理屈が当てはまります。

ただし、このpT2+はWHOのブルーブックにもUICCのTNM分類にも記載されていないので癌取扱い規約独自のものなのかもしれません。

なんにせよT2aかT2bかT2cかT3aかT3bかT4かわからないものをごちゃまぜにしてpT2+にしているわけですので、そのようなものをpT分類として扱うのは無理があると感じます。

 

⑤多発が前提でありGeneral rules を適用しにくい。

単発の前立腺癌はほとんどないですよね。大部分の症例が多発例です。

例えば5mm大の癌が多発していて、10個の癌が両葉にあるとします。普通はpT2cでいいと思いますが、一つ一つの癌巣はpT2a相当だとしたらどうでしょうか。おそらくGeneral rules の5番 (UICC, p9) を採用するとこの場合は, pT2a(10) とか pT2a(m) という記載が適当だと思われます。しかし、実際にはこの辺が明確に規定されていません。

 

こうしてみると、やはり特殊というか、奇妙というか、しっくりこないというか、そんな印象が強いです。

とりあえず定義することに意味があるというのが分類ですし、今後また改訂されていくのだと思います。改良されてわかりやすいものに変わってほしい。期待したいです。

 

 

参考書籍です 

 

前立腺癌取扱い規約 第4版

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