膀胱癌の組織学的TNM分類についての備忘録です。2018年2月現在出版されている泌尿器領域の癌取扱い規約においてはこの腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約を含めてUICCのTNM分類第7版が採用されています。
膀胱癌の診断に際しては多くはTURBTあるいは生検が対象となります。通常のTURでは固有筋層の深部まで切除してくることはないので、非浸潤癌 (Ta / Tis) か 浸潤癌(T1 / T2a )かの判断が主体となります。
T分類
乳頭状非浸潤癌⇒ pTa
上皮内癌⇒ pTis
粘膜上皮下結合織に浸潤⇒ pT1
固有筋層に浸潤 (1/2にとどまる) ⇒ pT2a
固有筋層に浸潤 (1/2をこえる) ⇒ pT2b
顕微鏡的に筋層外へ浸潤 ⇒ pT3a
肉眼的に筋層外への腫瘤形成をともなう浸潤 ⇒ pT3b
前立腺間質・精嚢・子宮・膣のいずれかに浸潤 ⇒ pT4a
骨盤もしくは腹壁に浸潤 ⇒ pT4b
N
小骨盤腔内の1個のリンパ節転移 ⇒ pN1
小骨盤腔内の多発性リンパ節転移 ⇒ pN2
総腸骨動脈リンパ節転移 ⇒ pN3
M
遠隔転移あり ⇒ pM1
診断例
TUR
① Urothelial carcinoma, G2, low grade, pTa
② Invasive urothelial carcinoma, G2>G3, high grade, pT1, INFb, ly0, v0, 筋層(+)
③ Invasive urothelial carcinoma, G3, high grade, pT2a, INFc, ly1, v0, 筋層(+)
全摘
④ Invasive urothelial carcinoma, G3, high grade, pT4a (prostate), INFc, ly1, v0 u-rt0, u-lt0, ur0, RM0
診断例についての説明:
膀胱癌の診断においては、施設において臨床医と病理医が共通に理解できる表現を用いることが最も良いと考えています。病理から臨床へ伝える情報量に変化がないのにわざわざ記載方法(format)をかえることは混乱につながるからです。
例えば①の診断例ですが、規約上はNon-invasive papillary urothelial carcinoma, low grade と書くのが適切かもしれませんが、あえて変更せずに以前からの表記を用いています。①がシンプルでかつ分かりやすいと思っているためです。
②などは検体内に固有筋層があるかないかの情報を伝えるために筋層(+)もしくは(-)の記載をしています。つまり「筋層(+)」を「検体内に固有筋層の成分が含まれています」という意味で用いています。施設によっては筋層浸潤ならT2ではないのかと勘違いがおこりえるかもしれませんので病理医と臨床医で共通の言葉を使う必要があります。
③についてはHE染色で判断できる場合はly・vについて評価をしますが、どちらか決定しづらい場合はLVI1という評価方法を用いることもあります (lymphovascular invasion: LVI)。
④については、u-rt ⇒右尿管断端 u-lt ⇒ 左尿管断端 ur ⇒ 尿道断端 RM ⇒ 剥離面断端 に相当します。
続・診断例についての説明(ここからはもはや備忘録ではありません)
さらに、癌取扱い規約に詳しい先生は③の診断例の pT2aという表現が不適切であると指摘するかもしれません。
「TUR検体では明らかに最深部の状態が評価できる場合にはpT分類が可能である。」
「最深部の状態が評価困難な症例ではpT分類は評価困難である。」
「(TURでは) 腫瘍が固有筋層に浸潤する症例は評価困難。」
と癌取扱い規約に記載があるのをご存知なのです (P104~105)。規約に準じて診断すると筋層浸潤癌はpT分類をしてはいけないことになってしまいます。
しかし私は「筋層浸潤があります」という情報を伝えるために「pT2a」を使っています。「T2a以上」や「T2a or more」や「T2a≦」や「腫瘍が固有筋層に浸潤している」などいろんな表現が可能だと思いますが、以前から③のように使っていてかつ分かりやすいので変更していません。どのようにレポートをするのかはその施設によって取り決めをしておくことは大切です。
ここで議論しても仕方がないのですが、「散り散りバラバラになった検体を出してきて最深部を評価する」ということ自体もともと無理なんです。腫瘍のまわりに十分なマージンを確保して3次元的にひとかたまりで採取してきた検体に対してのみ、最深部を評価することができます。さらに厳密には単発で腫瘍細胞が連続性を有している病変で腫瘤を形成している場合にしか断端や最深部の評価はできないのです。多発もしくは空間的に連続していない病変に対して断端や最深部を評価することは誰にもできません。なぜならそこに癌細胞がなくても離れて採取していない部分に癌細胞があるかもしれないからです。膀胱においては全摘・部分切除もしくはTURBOとよばれる方法でしかT分類できないと考えるべきです。
それでは何故、規約にはpT分類の評価が困難であるとわざわざ記載されているのかを調べてみました。UICCのTNM分類第7版(TNM Classification of Malignant Tumours, SEVENTH EDITION)を読んでみると、Urinary bladder についてはp262~265に書かれていますがとてもシンプルで分かりやすく、TURなどの手技については一切記載されていません。
ところが "Introduction" の中に "The General Rules of the TNM System" の項目があり、p8には
"The pathological assessment of the primary tumor (pT) entails a resection of the primary tumour or biopsy adequate to evaluate the highest pT category."
と書かれています。「最高のpT分類を評価するために適切 (adequate) な検体が必要」ということです。
結局、厳密に解釈していくと、TURでもTU-biopsyでもpT分類はできないのです。なぜならその採取された検体よりも深い(最高のpT)病変があるかもしれないからです。こう考えていくと、すべてのTUR検体で「p」をはずすことにするというのも一つの手かもしれませんね。pTis も pTa も pT1 もすべて Tis, Ta, T1 と記載すれば良いのかもしれません。
(とりあえず私は自分の診断フォーマットをかえたりせずに頑張ろうと思います。)
参考書籍です
↑ 私が所有しているUICCのTNM分類の第7版は現在amazonでは販売していないようです。

TNM Classification of Malignant Tumours
- 作者: James D. Brierley,Mary K. Gospodarowicz,Christian Wittekind
- 出版社/メーカー: Wiley-Blackwell
- 発売日: 2017/01/17
- メディア: ペーパーバック
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↑ 最新版の第8版が1年前にでています。

- 作者: James D. Brierley,Mary K. Gospodarowicz,Christian Wittekind,UICC日本委員会TNM委員会
- 出版社/メーカー: 金原出版
- 発売日: 2017/12/26
- メディア: 単行本
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↑ さらにその日本語版が最近出版されています。
しばらくすると第8版を踏まえてまた癌取扱い規約が改訂されるのでしょうか、、、、