こんにちは。
泌尿器病理医が病理その他について思うことを書いています。
本稿では2018年8月に改訂された「精巣腫瘍取扱い規約第4版」をチェックしていきます。
精巣に限らず、UICCのTNM分類第8版に沿う形になっているのが最近の傾向ですね。
さらに泌尿器病理の領域ではありがたいことに、WHOのブルーブックに追従することが多いので、2016のWHO classification に準拠する形で名称や組織分類が変化しています。
T分類
T1とT2⇒精巣・精巣上体に限局する。鞘膜への浸潤か脈管浸潤があればT2。
T3⇒精索浸潤
T4⇒陰嚢に浸潤
このあたりは以前から変更ありません。(鞘膜が漿膜ではないので注意)(Tisはつけたことがありませんが今回の規約でいうGCNISのみのケースですね。)
(AJCCの亜分類についても記載あり。セミノーマに限り腫瘍径が3cm未満でpT1a, 3cm以上でpT1b)
N分類
N0⇒リンパ節転移なし
N1⇒ 2cm以下の転移
N2 ⇒ 2~5cm以下の転移
N3 ⇒ 5cmをこえる転移
※以前から変化なし
M分類
M0 ⇒ 遠隔転移なし
M1 ⇒ 遠隔転移あり
M1a ⇒ 領域リンパ節以外のLN転移 or 肺転移
M1b ⇒ 領域リンパ節以外のLN転移 and 肺以外の転移
※以前から変化なし
S分類
血性腫瘍マーカーによってS0・S1・S2・S3と分類される。LDH・hCG・AFPの値で決まる(病理医にとってはあまり関係ない項目かも)。
※以前から変化なし
名称変更
2016 WHOの改訂で名称が統一されたので、最近は精細管内胚細胞腫瘍のことを「ITMGC」ではなく「GCNIS」を使うようにしていました。これが今回の規約にも明記されました。WHOではp190に載っています。
" germ cell neoplasia in situ (GCNIS) "
これだけは覚えましょう。
" Regressed germ cell tumor " ⇒ Burned-out tumor を退縮性胚細胞腫瘍と呼ぶことに
(p30には Burned-out tumor, intratubular malignant germ cells という表現が残っていますのでおそらく呼び名としてはしばらく残るのでしょう)
旧: 単一型(Tumors of one histological type, pure forms)
新: 単一型 (Tumors of single histological type, pure forms)
・・・これはどっちでもいいかと (WHOのp203をみてください、 single になってるのでこれをそのまま規約に載せたようです)。
Teratoma with somatic-type malignancy : こちらは体細胞型悪性腫瘍を伴う奇形腫と日本語訳されていますが、規約で呼び方が変わったものの一つです。WHOのp213あたりに載ってます。診断に際しては、at least one low-power field (x4 objective, 5mm in diameter) にsomatic-type の悪性成分を認めることが必要です。
細かくは対物4倍で直径が5mmになるのは視野数が20の接眼レンズを使っている場合ですが、最近の生物顕微鏡では視野数22以上が多いと思います。私は視野数26.5の接眼レンズを使用していますので1視野径が6.6mm程になってしまいます。
組織型の変更点
・yolk sac tumor と teratoma に関しては思春期前型・思春期後型に分類(prepubertal-type と postpubertal type を日本語にした)
・ teratoma に関しては mature / immature の分類を廃止
・ GCNIS由来胚細胞腫瘍とGCNIS非関連胚細胞腫瘍という概念の導入
・精母細胞性セミノーマ⇒精母細胞性腫瘍
これらはすべて2016年版のブルーブックに準拠しています。

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↑ ですので、こちらを元に診断されていれば全く問題ないはずです。
ざっと見渡して、見慣れない腫瘍は、「傍精巣組織の腫瘍」のなかの黒色神経外胚葉性腫瘍 (melanotic neuroectodermal tumor) くらいですが、調べてみると前回の規約にも載っていました。逆に前回規約にあった lipid-rich Sertoli cell tumor がなくなっていますね。
免疫染色の種類
免疫染色の一次抗体について表が掲載されています。日常的には CD30・AFP・β-hCGくらいでいいと思いますが、時代の流れなのか多くの抗体が登場しています。
GCNIS由来か否か
今回の改訂で大きな変化のひとつが、GCNIS由来どうかという概念だと思います。
普段目にすることが多い成人の精巣腫瘍は悪性であり、目にすることが少ない小児の精巣腫瘍は良性である、というのはおおざっぱに理解していました。
本分類では「成人型の悪性腫瘍はGCNISから発生する」ということが重要視されています。
そして小児に発生するteratoma ・ yolk sac tumor は、spermatocytic tumor (精母細胞性セミノーマと呼んでいたもの)とともに 「GCNISとは関連のない腫瘍」に分類されます。
これは今までやってきた病理診断そのものが変わるというよりは、疾患概念としての分類が変わったという理解でいいと思います。
つまり今までteratoma と診断していたものは変わりなく teratoma であるし、yolk sac tumor も今まで通り yolk sac tumor だということです。
ただし小児に発生するもの (teratoma / yolk sac tumor) は GCNISと無関係な腫瘍であると分類され、prepubertal-type という接尾語がつきます。成人に発生するもの (teratoma / yolk sac tumor) は GCNIS由来の腫瘍に分類され、postpubertal-type という接尾語がつきます。
こういった事情を考えると、腫瘍周囲に精巣実質が残存している場合でその部分にGCNISがあれば「腫瘍周囲の精細管内にはGCNISを認める」くらいの記載はしておいたほうが良さそうです。 (臨床的に意味があるとは思えませんので必須ではないでしょうが)。
基本は 2016 WHO
ざっとですが新しく改訂された規約を見てみました。組織分類についてはほとんどWHOブルーブックの日本語版といった様相を呈していますので、より詳細を知りたい場合は規約に加えてブルーブックを参照することになりそうです。
あと、目についたのはWHOのp256に Deep angiomyxoma の項目が記載されています。ICD- codes には 「 Deep ("aggressive") angiomyxoma 」とダブルクォーテーションと括弧入りの名前になっています。この腫瘍に出会うことはそうそうないと思いますが、とても目立っているので気になりました。
これを規約に盛り込む必要があるのかわかりませんが、p61には「深在性(侵襲性)血管粘液腫」として説明が入っています。HMGA2のrearragengementが見られるそうですが、一般の施設でそこまで調べるのは難しそうです。
最後に
基本的にはTNM分類も変わっていませんし、今までやってきたことと大きく変わるものではないという印象でしたので、病理診断に関してはそれほど気を付けるポイントは多くないと思います。GCNISという言葉はぜひ覚えておきたいと思います。